論・憲法~立憲主義を守るために 第12回(完)

第12回 自民党憲法改正草案

さて、ひさびさに自民党の憲法改正草案の話です。

憲法9条については、大きく変えようとしています。まずは第2項。「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」となっています。

「個別的」と言う限定はついていません。つまり、閣議決定では一定の条件のもとで集団的自衛権の行使も可能なのだ、としていたはずですが、何らの条件も付けず、個別・集団の区別もなく、自衛権の発動を妨げないとしているわけです。

さらには、9条の2なる規定を新設し、「内閣総理大臣を最高司令官資する国防軍を保持する」し、9条の2の第5項には「国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪または国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く……」としていて、Q&Aには、「審判所とは、いわゆる軍法会議のことです」とされています。

古色蒼然、とは、このことではないでしょうか?

安保法制の議論の際も、地域の方から、徴兵制が心配、という声を少なからずいただきました。実は、日本国憲法には、徴兵制を禁じる明文の規定はありません。まぁ、そもそも戦争なんかしないと誓った憲法ですから、徴兵制を禁じる規定を置く意味すらなかったのでしょう。

ただ、このことも国会では議論があって、これまでの政府の見解は、徴兵制は憲法18条によって禁じられているのだ、と説明されてきました。憲法18条は次のような規定です。

第18条 何人も、いわゆる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

徴兵制は、「その意に反する苦役」にあたる、と言うのがこれまでの政府見解です。

安倍内閣も、現時点ではこの見解は維持しているようですが、将来、「そんなことないんじゃないの?」という内閣が登場したらどうでしょう。憲法改正の手続を経ないで、法律改正でやってしまうこともありうるのではないかと言う懸念は払しょくできません。

自民党のQ&Aによると、「「その意に反する苦役」という文言は、自民党の憲法改正草案でも、そのままの形で維持しています。文言が変わらない以上、現行憲法と意味が変わらないのは当然であり、徴兵制を採る考えはありません」ですって。

憲法の文言を変えないで、閣議決定で集団的自衛権の行使ができるとしたのはどなたさまでしたっけ?

こんなことをしれっと解説しちゃう自民党の憲法改正草案。なんか、この原稿を書いていて、恐怖すら覚えてしまいます。

これまで、いかに自民党の憲法改正草案がトンチンカンなもので、恐ろしいものかを解説してきました。長期間にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。

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