論・憲法~立憲主義を守るために 第2回

第2回 国民投票の方法について

さて、前回、いささか技術的な問題について、「付録」的な形で改正が提起されればいいのではないかと書きました。

「そんなことしたら、危険な改正でも賛成が増えるではないか」と危惧される方もいらっしゃるかもしれません。たとえば、憲法9条を国防軍とするという改正案と、環境権の創設をするという改正案が提起された場合、後者に賛成だから丸ごと賛成しなければならないことになるのではないか、ということです。

このことは、憲法改正の国民投票法をつくるときに、大いに議論になったことです。つまり、「改正に賛成だ」という意見がいかにも多そうにものと抱き合わせにして、「改正に反対だ」という意見がいかにも多いものを提起すれば両方とも成立してしまうではないか、という懸念です。

結論から言うと、そうはならないように工夫されています。
国会法68条の3において、「憲法改正原案の発議にあたっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」となっています。

どういうことかというと、おそらく憲法改正というと多くの方が9条を念頭に考えられているでしょうから、逐条ごと、つまり1つ1つの条項ごとに賛否を問うべきだ、という意見があるのだと思います。

しかし、条文としては複数になってしまっても、論理的に密接で切り離せない場合があるのも事実です。頭の体操ですが、仮に、「新たに憲法裁判所を創設する」という憲法改正案が提起されたら、同時に、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」という81条も同時に改正しなければ、おかしなことになるかもしれません。

一方の条文が賛成多数、一方の条文が賛成少数となると、矛盾する2つの条文が憲法に規定されるという事態も論理的にはあり得ます。そうならないため、内容において関連していれば、複数の条項について一括して憲法改正を提起するということは認められているのです。

しかし、先ほど上げた例のように、9条と環境権を一括して、ということはできません。憲法改正国民投票法56条は、投票用紙の交付及び様式について、別記で「二以上の憲法改正案について国民投票を行う場合においては、いずれの憲法改正案に係る投票用紙であるかを表示しなければならない」としています。

つまり、内容において関連している条項はまとめて賛否を表しますが、内容において関連していない場合にはそれぞれについて投票するわけです。衆議院選挙の時も、「選挙区の投票です、候補者名をお書きください」、「比例代表の投票です、政党名をお書きください」、「最高裁判所裁判官の国民審査です、罷免すべき裁判官に×をご記入ください」と、それぞれの投票をすることをイメージしていただければよいかと思います。仮に9条と環境権が同時に発議されたとしても、投票自体は、「9条の改正案です」、「環境権の改正案(発議案?)です」という形で投票が行われることになっています。

冒頭に戻ります。憲法改正というと、9条に焦点が当たるのは当然のことですが、技術的な条項も対象となりうるわけで、そのことだけのために改正を提起しても、国民的な議論とはなりにくいでしょうし、いきおい、投票率も低くなることが予想されます。なにより、それだけのコストをかける必要があるのかという問題もあります。このように、別々に国民投票ができることを前提として、「付録」的な形でと申し上げているわけです。

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