日本国憲法が謳う「すべての国民は個人として尊重される」(13条)と「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)、これらの権利を実現するために政治は何をすべきか―。
この権利を妨げる障壁があれば、除去するのが法の役割であり、この権利を最大限に実現するのが政治の役割だと語るのは、山花郁夫前衆議院議員。憲法の専門家でもある山花郁夫前衆議院議員に人権や生活に関わる課題について聞きました。

弱い立場にある人が安心して暮らせる社会にしなければ、幸せの総量を増やすことはできない。

―― 政治とカネの問題により、政治不信が高まっています。

かつて、「一億総中流」と言われた時代がありましたが、競争原理があおられ、規制緩和や民営化が推進されました。アベノミクスは、株価の上昇をもたらしましたが、一握りの富裕層が恩恵を受けるだけで、「生活が苦しい」と感じる人が増えました。これまでの政府の政策は、格差の拡大を容認してきたのです。

非正規労働の増加も格差拡大の一因であり、少子化にも影響しています。子どもが増えていた時代は、今日よりも明日はもっと良くなるという期待が持て、結婚や子育てに対するハードルが今よりも低かったのではないでしょうか。安定的な雇用を増やすことが根本的な少子化対策になると考えます。

富裕層の所得が上がっても利益は投資に流れ、地域経済は潤いません。月例賃金が1万円増えたという人がたくさんいたほうが、地域にお金がまわるはずです。強い者をより強くするのではなく、格差を是正し、弱い立場にある人が安心して暮らせる社会にしなければ、人びとの幸せの総量を増やすことはできません。

実質賃金を上げ、安心して働き、生活できる環境を創る。

―― 賃上げが言われていますが、物価上昇に追いついていないのが現状ではないでしょうか。

現在の物価高の大きな要因は行き過ぎた円安にあります。政府はこれまで、円安方向に政策誘導してきましたが、これを改めなければ、抜本的な解決にはなりません。また、実質賃金が上がるような税制上の仕組みなどを作ることが必要です。恒常的に賃上げが行われるようにするためには、経営側に努力を求めるのではなく、税制上の仕組みなどを改めて、自然な形で賃上げが行われるようにすることが政治の役割です。

―― 具体的な対策は。

法人税の累進化です。現在、法人税は一律ですが、一律税率だと、収益を確保するため、人件費を抑えたり、下請け企業に値引きを求めたりすることが考えられます。これに対し、累進制では一定額以上の収益に高い税金が課されるため、下請け企業と適正価格で取引することが期待されますし、高い税金を払うよりも社員に還元してモチベーションを上げるほうがメリットがあると考えるのではないでしょうか。さらに、一律税率では、非正規雇用化が企業の収益につながりますが、累進性ではメリットが減少します。非正規の増加が格差を生んでいる一因でもありますから、非正規から正規雇用への流れを作ることができれば、格差是正にも有効です。

人びとの幸福を増加させるとともに、不幸を減らすことが政治の務め。

―― 2000年の総選挙で初当選、初めて提出した議員立法が、選択的夫婦別姓を可能とする民法の改正案だったとのことですが、いまだに別姓は認められていません。

別姓を認めるということは、個人のアイデンティティと生き方を尊重する社会にしていくということです。不寛容で他人を排斥し合う社会よりも、お互いの生き方を尊重し合える社会のほうが幸せだと思います。多様性を認め合うという観点からも、別姓も選択できるようにすべきです。「あなたがあなたらしく生きられる社会」をつくりたいと活動しています。多様な選択ができる、人の選択を笑わない社会。人びとの幸福を増加させるとともに、不幸を減らすことが政治の務めだと考えています。

―― 「あなたがあなたらしく生きられる社会」とは。

障害の有無や性別、性的指向などによってではなく、一人一人の人格によって公平に評価される社会です。個人の人格を尊重し、少数の意見も認め合い、差別や分断を許さない社会の構築はすべての人の安心につながります。あらゆる差別と断固たたかい、あるがままを誇れる社会をめざします。