被害者の心情と立法事実のはざまで(これまでのまとめ)

これまで、かつて立案に携わった危険運転致死傷罪と対比して考えてきました。適切な処罰を捕捉しつつ、処罰すべきでないと考えられるものについては除外することが刑事法の立案・改正には必要です。

問題は、処罰すべきかどうかという線をどこで引くか、にあります。

私が中学生時代、武田鉄矢さん主演の「3年B組金八先生」が人気を博していました。杉田かおるさんが「15歳の母」となり、相手役に鶴見辰吾さん。「金八先生」が二人の生徒の存在と新しい命について悩みながらも必死になる物語も話題になりました。

最近では、映画『朝が来る』(河瀬直美監督)や小説『朝が来る』(辻村深月原作)でも、年少者同士での出産が描かれています。

改めての話ですが、「相手を大事に想うのであれば、性行為は我慢すべきだ」というのは倫理的に間違いとは思いません。しかし、当該行為について、刑事罰の処罰の対象とすべきか、ということとなると話はまた別です。

にもかかわらず、「性交同意年齢の引き上げ」はこのようなケースを犯罪化することを意味します。※1 

実際、性交同意年齢の引き上げを主張されている学者の方に、「15歳どうしでもが成立することになる」旨指摘したところ、そのとおり、という返答でした。ただし、検察はそのようなケースでは立件しないであろうということも仰っていました。

※1 仲道祐樹著『イギリス法における性犯罪規定、盗撮規制及び性犯罪記録画像の取り扱い』樋口亮介・深町晋也編著『性犯罪規定の比較法研究』82頁(2020年・成文堂)でも、「例えばこの年齢を16歳未満に引き上げた場合、中学3年生同士の性交が禁止され、仮に性交等をすれば双方に強制性交等罪が成立することになる……」とされている。

これに対し、年齢が近い場合には例外を設ければよいのだとか、年長者との関係が問題なのだ、というご意見もいただきます。これは、以前ノートで整理させていただいたとおり、「同意を無視する」という意味での性交同意年齢ではなく、保護年齢の議論ということになります。外国と比べて日本の性交同意年齢が低いと紹介されることがあるのは、実はこの保護年齢との比較であって、異なった制度を比較していることは、既にノートで指摘したとおりです。規定ぶりの違いなど、外国でもさまざまなバリエーションがありますが、年長者から年少者の保護、という意味での保護年齢は、日本では18歳に設定されていますから決して低すぎることはありません(児童福祉法)。※2 

年長者からの性被害保護という観点で、年齢で線を引くのだとすると、すでに日本では18歳となっていますから、保護年齢について、仮に「例外を認めて」あるいは「個々の事情に応じて」大人からの子どもの性搾取を処罰すべきだ、ということであれば、すでに日本の法制度は対応していることになります。にもかかわらず、「16歳」に線を引くべき、というのでは保護年齢の引き下げを意味します。しかし、性被害者保護を手厚くすべきだという視点からは、いささか不可解なことになります。

※2 「被害者が13歳以上18歳未満である場合は、刑法典上の性犯罪で捕捉できない場合であっても、児童福祉法上の『児童に淫行させる』罪で処罰することが可能である。」刑事比較法研究グループ「比較法から見た日本の性犯罪規定」刑事法ジャーナ45号159頁(2015年・成文堂)