被害者の心情と立法事実のはざまで(当事者について)
危険運転致死傷罪の場合、業務上過失致死傷罪(刑法211条)の刑罰を重くする、というのも1つの考え方でしょう。
議員立法を検討するにあたって、交通事故の被害者の方々からの指摘で、気になることがありました。業務上過失致傷罪について、警察で処理されているにもかかわらず、起訴されている率が低い傾向にあったからです。
調べてみると、「悪質運転で人をケガさせた」というケースばかりではなく、普通にある自動車事故で、運転者に過失が認められ、同乗者が家族であったケース(当時は、シートベルトの着用は義務化されていませんでした)や、自宅の車庫に入れる際、自分の子どもがいることに気づかず、怪我をさせたようなケースが少なからずありました。特に前者では、警察の事故証明がないと保険が下りないなどの事情で、警察に届け出ることから、警察としても業務上過失致傷という事案について認知はするものの、すべてについて「事件」として処理するわけではないということでした。
業務上過失致死傷罪を重くする、という選択をした場合、上記のようなケースについて、「重罪であるにもかかわらず、警察がもみ消している」という評価にもなりかねませんし、今後、そのような事情があるとしても、処罰すべきだ、という立法者の意思とも捉えかねません。
しかし、処罰範囲が拡張させる対象になり得る「当事者」の声を聴くことは困難です。当事者団体が存在しないだけでなく、そもそも、当事者となりうる人々に、「あなたたちはこれから、こういう要件の行為をした場合、処罰される可能性がありますよ」というメッセージは届いていないからです。
このような場合、立法者としては、当事者となり得る人々の合理的意思を推認するほかありません。自動車を普通に運転し、過失があったとはいえ家族や子どもを傷つけた場合、早く病院やお医者さんに連れていくべきとは思いますが、罪をもって償うべしというのは違うのではないか、というのが合理的なのではないでしょうか。
そうだとすると、悪質事案を捕捉しつつ、上記のような事案は対象外の構成要件とすべきということになります。そして考えたのが、危険運転に起因しての致死傷罪という法案でした。
強制性交罪における性交同意年齢について、似たような問題を感じます。
改めてですが、年少者同士であったとしても、暴力によって意に反する性交を強いた、ということであれば、たとえ年少者どうしであっても強制性交罪は成立しますし、外国では、年少者に対して一定の年齢差がある年長者に、①何らかの条件で犯罪が成立する(日本における児童福祉法に似た方式)、あるいは、②犯罪が成立している場合に、より重く処罰する(刑の加重)、というやり方をしている国もあります。
これに対して、日本における刑法の性交同意年齢は、仮に性行為に対して真摯な同意があったとしても、法的にはそんなものはありえない、無視して犯罪とするのだ、というものです。
仮に性交同意年齢が16歳ということになると、15歳の同級生で性行為を行った場合、刑法177条は性中立化されていますから、行為者双方に強制性交罪が成立することになります。そしてこれは、男女に限らず、男の子同士、女の子どうしであっても同様です。本文において、少年犯罪の拡大になること、年少者について同性愛処罰法として機能することになると述べたのは、このようなことを指しています。
今年5月11日の「マツコの知らない世界」では、「ギャルの世界」を取り上げ、eggの赤荻瞳編集長が出演していました。
ギャル雑誌「egg」の専属モデル聖菜さんは、現役女子高生である16歳で妊娠、17歳で出産し、出版した本『やりたいことは全部やる、自分らしさってそういうことでしょ?』(KADOKAWA・2020年)の中で、ご両親に「ドキドキの妊娠報告」をし、了解をいただいた時のことがつづられています(65頁でママの一言には感動しました)。
さすがに、これが普通だ、というつもりはありませんが、唯一のケースとも思えません。SNSでも重川茉弥さんが多くの支持を受けています。
もし、これから性交同意年齢が16歳ということになれば、今後、このようなカップルの、少なくとも相手方には犯罪が成立することになります(しかも、強制性交罪は非親告罪化されていることにも注意が必要です)。したがって、たとえ親公認であったとしても、このような生き方はかなわないことになります。にもかかわらず、処罰範囲が拡大されたときに「当事者」となるべき人々に現在の議論が届いていないように思われます。