【特別対談企画】山花郁夫×斉藤りえ「すべての人たちに優しい社会を目指したい」
デフリンピック東京大会
[山花]2025デフリンピックが初めて東京で開かれます。
[斉藤]デフリンピックは、ろう者のための国際的な競技会です。東京大会は、2025年11月15日から26日まで開催を予定しています。世界中から外国人のろう者、難聴者の方々が集まり競技に参加いただけますが、これは単なるスポーツのイベントではなく、これを機に東京から日本社会おダイバーシティを高めていくチャレンジになると捉えています。
コミュニケーションについて
[山花]聴者はとかく、聴覚障がいの方は手話で、視覚障がいの方は点字でコミュニケーションを図っていると思いがちですが、実際にそのようなコミュニケーションをしている人たちは20%~30%くらいではないかといわれています。斉藤さんも昔から手話でコミュニケーションをとっていたわけではないですよね。
[斉藤]まさにその通りで、よく「耳が聞こえない=手話」と理解されている方が多くいますが、けしてそんなことはないのが聴覚障がい者のリアルです。私自身も手話を習い出したのは、社会人になって上京してからになりますし、そういった方も少なくないです。
人によって耳の聞こえも異なれば、育ちだったり、生まれた環境、家庭の教育方針も異なります。どのような手段でコミュニケーションをとるかは、聴覚障がい者ごとに異なることを、まだまだ多くの方が御存じなかったりもします。聴覚に障がいを持っていることに気付くと、様々なな配慮やサポートを受けることがありますが、そうした善意の行動の中には、必ずしも障がい当事者が欲しているニーズとは異なる場合などもあるため、そうしたミスマッチを無くすためにも障がいに関する正しい知識を広めていくことが重要だと感じています。
緊急時の情報保障の重要性について
[山花]東日本大震災のとき、自分は外務大臣政務官をしていて、政府側で仕事をしていました。一時期岩手県で政府の災害対策本部長をしていて、被災地の避難所などをめぐる日々がありました。その時思ったのですが、身体などにハンデがある人は視覚的に理解できるのですが、聴覚障がい者は外見では障がいがあることが分らないということです。
手話を使っていたり、筆談をしていればわかるのですが、そうでないかぎりはこの人に聴覚障がいがあるということを認識することは難しいです。また、アナウンスなどもスピーカーを通じて行っても届きませんから、ろうの方に対する情報保障ということの重要性について認識する機会になりました。
[斉藤]障がいを有している方や高齢者などの要配慮者への災害時の対応はとても難しいと感じています。私も都議会で何度も質問や提案を行いましたが、音声情報が欠けることは災害時などの有事の避難に大きく差が出てしまいます。実際に熊本地震では聴覚障がい者はその他に比べて2倍から4倍も避難が遅れたと言われています。
災害などの有事は、そうではない平時の訓練や環境整備がとても大きく影響を及ぼすと考えられています。
[山花]2013年に鳥取県で日本で初めて手話言語条例が制定されて、県立病院の先生たちが手話の勉強をしているそうです。医師ですから、手話通訳士の方のようにあらゆることについて手話ができるように、ということではなく、熱はありますかとか、頭が痛いのですか、というような診察に必要なことについて手話で話せるように、ということです。
[斉藤]東京都も2022年に手話言語条例を制定しました。策定に至るまで、私も超党派のワーキングチームで様々な議論に参加し、多様な立場の聴覚障がい者にとってのよりよい条例を目指しました。手話言語条例は、制定されることがゴールではなく、その条例に基づきながら実生活にどのように影響を及ぼしていくかが大切なことであり、ようやくスタートに立ったというところです。加えて、情報コミュニケーション条例が制定することができれば、これが車の両輪となって多様な都民のコミュニケーションの保障と向上に向けた基盤になると考えています。
すべての人に優しい社会へ向けて
[山花]デフリンピックに関連してということで、聴覚障がい中心にお話してきましたが、もしかするとこれをご覧いただいている人の中には、「一部の人、特定の人のための話でしょ」と思われる方もいるかも知れません。
『耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ』という絵本があるのですが、この物語は、野球の審判がストライクやセーフなどのジェスチャーをするようになったのは、ろうのメジャーリーガーのためだったことが描かれています。巨大なスクリーンなどもない時代、審判のジェスチャーによって、観客にとってもプレーが分かりやすくなり、野球観戦がより楽しめるようになったというエピソードも紹介されています。
[斉藤]聴覚障がいで言えば、加齢とともに難聴になる方も少なくないですが、聴覚障がい者にとって優しい社会づくりは、結果として高齢者などにも優しい社会を描くことにつながるのではないでしょうか。また、音声言語により情報に限らず、文字情報による情報の見える化は、外国人の方や外国ルーツの方の中で日本語を母国語としない方々にとっての情報保障にもつながります。単に特定の障がいへの対応といったことではなく、多様な方々が豊かに社会生活を送ることを想像することは、結果的に多くの、もっといえばすべての人が豊かに暮らせる社会づくりにつながるのだと信じています。
[山花]エスカレーターやエレベーターの設置など、バリアフリーの取り組みは、もともとは足の不自由な人に対する配慮として始まったものですが、赤ちゃんを抱っこするパパやママにとっても移動が便利になっています。近年では、ホームドアの設置が目の不自由な人の転落事故を契機として報じられることもありますが、転落事故は圧倒的に健常者のほうが起こしています。お酒に酔ってとか、最近だとスマホを見ながらというケースが多いようです。幸福を増やすことも大事ですが、リスクを低減することも重要だと思います。
[山花]今年から、障がい者差別解消法による合理的配慮義務が民間の事業者にも適用されることになりました。どこまでが合理的配慮なのかについてはこれからも試行錯誤が続いていくと思います。法律や条例ができたからそれで一段落、ということではなく、少しずつでもその水準を上げていく、そのために行政に対してチェックをして、時には前に進めることを求める、というのが議会として重要な役割ではないかと思います。
国、東京都とそれぞれの役割があると思いますが、障がい者施策の推進について、お互い協力して頑張っていきたいと思います。
まとめ
[斉藤]本日は貴重な機会をありがとうございました。こうして音声読み上げソフトを活用しながらの対談は、多くのみなさんが見慣れていないことであり、戸惑いもあったと思います。他方で、こうした未知との出会いも、多様性を向上させていく大切な経験なのではないかと考えています。私が日ごろから大切にしている、「心のバリアフリー」は、多様な人たちの存在を認め合い、尊重できる社会の基盤として大切であると信じています。自分とは異なる言語や文化、そして障がいを持っている人達を知り、その人たちと協働しながら社会をより良く、豊かにしていけるのか、今日の対談の場がそうしたことを少しでも考えるきっかけになれば幸いです。引き続き、都議会で頑張っていきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。