論・憲法 〜立憲主義を守るために 第4回

第4回 立憲主義について

立憲主義の考え方からすれば、法律などのルールはいわば「権力者が国民を縛る」ものであるのに対して、憲法は「国民が権力者を縛る」ものということができるでしょう。

法律などのルールは、権力者側が国民に様々な制限をしたり、義務を課します。赤信号は渡ってはいけないとか、車を運転するには免許証が必要だとか。

これに対して、憲法は、国民の側が権力者の権力行使を制限したり、義務を課しているわけです。違憲の法律を作ってはいけないなど。

こういった視点から見ると、憲法99条はなかなか味わい深い条項です。

「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と書かれています。いわゆる憲法尊重擁護義の主体に国民は入っていません。

つまり、権力を行使する人々に対して、国民の側が憲法という縛りをかけている、ということが読み取れるのではないでしょうか?

自民党の憲法改正草案第24条1項後段は、「家族は、互いに助け合わなければならない。」という家族の助け合い義務を規定しています。「民法じゃないんだから!」と突っ込みを入れたくなるような規定でして、何で憲法にこんな国民を縛る規定を入れようというのでしょうか?

立憲主義の何たるかというか、民法(法律)と憲法の違いも分かっていないのではないかと……。

こういうことは法律の規定でしょ?

自民党は、「日本国憲法改正草案 Q&A」なるものを公表していて、そのなかで、「……現行憲法も、『教育を受けさせる義務』『勤労の義務』『納税の義務』が規定されており、国家・社会を成り立たせるために国民が一定の役割を果たすべき基本的事項については、国民の義務として規定されるべきであるとの考え方です……」と説明しています。

「そういえば憲法の三大義務とかって習ったなあ」って、勘違いしないでくださいね。

「教育を受けさせる義務」について

教育を受けさせる義務について、これを「国民の義務だ」としてあげることには、条文の脈絡を軽視しているような気がします。憲法26条は、次のような規定です。

第1項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

第2項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

この第2項の前段を指して、「教育を受けさせる義務」というのですが、どういう脈絡で出てくるのかが大事です。

憲法26条は、まず1項で国民の教育を受ける権利を規定しています。ただ、「国民の」といっても、実際の主体は、未成年者でしょう。

未成年者が「自分には憲法上の権利があるから学校に行かせろ!」と主張することもあまり現実的な話ではありませんから、第2項で、その権利を担保するため、「国民」つまり保護者は、「……その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」とし、さらに、そうはいっても家庭の資力の問題もあるし、親が学費を払えないからということで子供が学校にいけないのはよろしくないということで「義務教育は、これを無償とする。」としているわけです。

条文を全体をとおして素直に読めば、文字面は「国民の義務」かもしれませんが、「子どもの教育を受ける権利の確保」に重点がある条文だということがお分かりいただけるのではないでしょうか?

つまり、自民党のQ&Aの言うように、国家・社会を成り立たせるとかいう話ではなく、国民(子ども)の教育を受ける権利を担保するために、一義的には保護者が責任を負いなさいね、という構造です。

「勤労の義務」について

勤労の義務についてはどうでしょうか?

憲法27条第1項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」と規定しています。この勤労の義務は、いろいろな意味で、珍しい規定です。

よく、日本国憲法はマッカーサー草案が土台となっているとか、GHQの作品だといわれることがあります。

確かに、ベースにはマッカーサー草案があることは間違いないのですが、この勤労の義務は、次に取り上げる納税の義務とともに、衆議院において修正されて加えられたものですから、まさに純日本製の条文です。

日本国憲法によって、生存権(25条)が保障されるようになりました。このことによって、生活保護法などが定められるようになったわけですが、「その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用する」ことを怠る者は、「勤労の義務」を果たしていないのだから、国は、その者に対しては生存権を保障する責任はない(生活保護法4条1項)。つまり、生存権の保障の前提として、勤労の義務があるということになります。

言い換えれば、勤労の義務とあわせて、生存権が獲得されたと考えることができるのではないでしょうか。

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