性犯罪に関する刑事法改正について。

はじめに

2017年6月に強姦罪が強制性交罪へ改められ、法定刑の引き上げ、監護者を主体とする特別類型の創設、性犯罪を非親告罪とする内容の刑法の一部を改正する法律が成立しました。この改正にあたっては、3年後の見直しの規定が設けられています。

この点、被害者および支援団体から、さまざまな問題提起がされています。被害の実態、依然として適正な処罰がなされていないことに対する疑義、捜査機関に対する不信感、加害者の更生可能性に対する疑念、支援体制の脆弱さや性に関する教育の不十分さなどなど。

被害にあわれた方々、関係者みなさまから、計り知れない憤りや悲しみを訴えるお話を伺いました。証拠保全や捜査機関への課題認識の共有、被害者の心のケア、加害者の再犯防止に向けた更生プログラムなど、多くの解決しなければならない課題がありますが、その1つが加害者に対する刑罰です。

どのような行為を犯罪とし、どのくらいの刑罰を与えるかが刑法の役割です。注意しなければならないのは、性犯罪の被害者をめぐる課題は各方面に山積しており、刑法の改正のみで万事が解決するわけではなく、あまたある課題の1つに過ぎないということです。

さて、性犯罪規定の見直しについては、外国の法改正の動向などが参照されながら、いくつかの論点についてさらなる提言がされています。

外国の法制度を参照することは、議論の題材として参考になりますが、それぞれの規定が置かれた背景や、他の条文や訴訟手続など、一体的に比較しないと、正確な対比にならないこともあります。

たとえば、それぞれの国から優れた部品を集めて、1つの作品を創ろうとしても、規格が違えば、いびつな構造となってしまうこともあるでしょう。先の刑法改正は、構成要件(どのような行為を犯罪とするのか)の議論の際には外国の制度を参照し、刑罰の程度(懲役何年とするのかなど)の議論の際には日本の刑法の他の刑罰との比較に基づいて結論を得たようなところがあります。このことが、積み残しの課題に対し、かえって解決に困難をきたしているようにも思われます。

具体的にはどのようなことなのか、性犯罪をどのように構成し、それに対する刑罰はどうあるべきなのかを考えてみたいと思います。

重罰化について考える

2017年法改正

その評価

旧強姦罪を強制性交罪に改めるとともに、法定刑の下限が3年から5年に引き上げられるという改正が行われました。いわゆる重罰化です。

「重罰化」というと、刑の上限を引き上げるイメージを持たれるかもしれません。罰金を懲役刑にするとか、有期懲役を無期懲役にするといったところでしょうか。しかし、上限がすでにいっぱいいっぱいの場合、下限を引き上げることも重罰化です。すなわち、判決で言い渡せる刑の最も軽い刑が3年だったものが、どんなに軽くても5年というのが先の改正です。

この改正にあたっては、被害者の方々の運動が背景にありました。被害者の処罰感情からは、より重い罪で償わせたい、というのは当然の主張かもしれません。

しかし、より手厚い性犯罪保護、言い換えれば処罰範囲を拡大しようとしている国々では、むしろ法定刑の引き下げ(下限の引き下げ)によって対処しています。このことから、改正の前後を通じて、「……法の運用実務では女性運動・強姦被害者運動の側の期待に反して、強姦罪に関する捜査・訴追が増加するかは、かなり疑問である。裁判所も、従来に増して、強姦の事実認定に慎重になる可能性が少なくないからである。……事実認定で被害者は同意していたという判断が現在よりも多くの事例で行われる可能性もある。」*1、「少なくとも、処罰範囲を広げたいとする意図があるのであれば、法定刑の下限を上げることは逆効果である。」*2、「法定刑の引上げには反対意見も有力であり、マイナス面も多いという指摘は傾聴に値する。……意地の悪い言い方をすれば、最も安易な方法が採用されたということでもある。」*3という懸念の声が刑事法の専門家から上がっていました。この人たちは決して男性優先社会のイデオロギーに基づいているわけではありません。むしろ被害者にとって本当に有益なのか、ということに疑問を提起しているのです。これはいったいどういうことでしょうか。

*1 斎藤豊治著「性刑法の改革と課題」『犯罪と刑罰』26号70頁(成文堂・2017年)
*2 嘉門優著「法益論から見た強姦罪等の改正案」『犯罪と刑罰』26号23頁(成文堂・2017年)
*3 辰井聡子著「性犯罪に関する刑法改正-強制性交等罪の検討を中心に-」刑事法ジャーナル55号8頁(2018年・成文堂)

重罰化の問題点

重罰化の限界

法定刑引き上げに際して、強姦罪は「魂の殺人」であり、財産犯である強盗罪よりも刑が軽いのはおかしいではないかという声が上がっていました。被害者の気持ちからすれば、情緒的には理解しやすいフレーズです。

しかし、法改正をするにあたってこの対比は果たして適切だったのでしょうか。構成要件の議論では外国の法制度が参考とされながら、刑罰の議論になると途端に日本の刑法との比較になってしまったのはどういうことでしょうか。刑罰に注目して外国の法制と比較すると、3年以上の懲役と定める日本の(旧)強姦罪の法定刑は決して「軽すぎる」とはいえないものであった、という事実は被害者感情に寄り添うという立場からは有益と考えられなかったからかもしれません。

しばしば参照されるイギリス2003年性犯罪法における強姦(rape)の法定刑は上限として終身拘禁ですが、量刑ガイドラインは4年の拘禁から19年の拘禁とされています。ドイツ刑法第177条⑹に定める強姦(Vergewaltigung)は、2年以上の自由刑です。フランスでは、刑法第222-23条に15年以下の懲役と定められていますが、法定刑よりも刑を軽く言い渡すことのできる幅がきわめて大きいため、実際の言渡し刑とは相当な差があるといわれます。米国1962年模範刑法典では2級重罪で10年以下の刑期、スイス刑法190条1項の強姦罪の法定刑は1年以上10年以下の自由刑となっています。

どんなに優れた商品でも、高い値段をつければ高いほど儲かる、と考える人はいないと思います。逆に、安くすれば安くするほどたくさん売れて、たくさん稼げる、というものでもありません。損益分岐点を超えた、一定の価格が適正な価格と考えるのが合理的です。

モノを買うのとは違いますが、刑事法の世界でも、「量刑相場」というものがあります。ある類型の犯罪については懲役何年くらいとか、軽度と判断される一定のレベルのものについてはそもそも起訴しないなどです。

小競り合い程度の喧嘩や、年少者の初犯の万引きなどであれば、おまわりさんに注意されてオシマイということもあるでしょう(この場合でも、暴行罪ないし傷害罪、窃盗罪が成立しています。

警察で、これは事件として扱うのだ、として書類を検察に送っても、検察官が起訴して、有罪判決を得るほどのものでないと判断すれば、いわゆる書類送検で終わることもあるでしょう。これらのケースでは、起訴すべき案件かどうか、という「相場感」が働いているといえます。

検察官が起訴をするケースでは、裁判所に対し、「これだけの罰を受けるべきだ」という主張をします(求刑)。日本の刑法の場合、法定刑の幅が比較的広く、その範囲でどの程度の罰が適当かは、犯罪の動機・態様、本人の反省の度合い、被害者の感情などを考慮し、過去の判例などから、「懲役○年くらいが相当」と判断するのが量刑についての相場感です。

法律を作る際、あるいは改正する際に、どの程度の刑を定めるかについて、相場感は参考になります。罪が憎いからと言って、できるだけ重く処罰しよう、ということは適切ではありません。

斉藤豊治・甲南大学名誉教授は、「駐車違反に対して、死刑や無期刑を適用できるようにすれば、駐車違反は撲滅できるか」というアメリカのロースクールのジョークを紹介し、いうまでもなく警察は取締り・立件をしないから、逆効果である、犯罪統計ではゼロになるかもしれないが、街には駐車違反が蔓延するであろう、と論じています。*4

刑事法の専門家が、疑問を提起としているのは、重罰化をすると、今まで以上に検察が起訴をすることや、さらには裁判所が有罪判決を出すことにより慎重になるのではないか、ということなのです。また、裁判にでもなれば従来にも増して懸命な弁護活動が展開されることは容易に想像できます。斉藤先生は、「法執行機関にとっては、重すぎる刑罰法規は、かえって使いづらいのである」と端的に指摘されています。

*4 斎藤豊治著「性刑法の改革と課題」『犯罪と刑罰』26号71頁(成文堂・2017年)

比較されるべき犯罪

それでは、どの程度の刑罰が適切なのか。あくまでも日本の刑法なので、その中での比較をすることが適切であり、外国の法制は別の話、というのも1つの理屈でしょう。そして、強盗罪の法定刑にそろえる形で改正されましたが、果たしてこの対比は適切だったのでしょうか。

後で検討する問題ですが、(旧)強姦罪、現在の強制性交等罪については、暴行要件における「有形力の程度」が裁判例において厳しすぎ、これを緩和すべき、あるいは撤廃すべきとの主張があります。

刑法177条には、「暴行又は脅迫を用い」ることが要件とされています。刑法208条に暴行罪の規定があり、「暴行を加え」ることが要件とされており、刑法には同じ「暴行」という概念で書かれていますが、暴行罪の暴行よりも狭い概念であるというのが一般的な理解です。

暴行罪における暴行は、身体に向けられた有形力の行使を指し、着衣を引っ張ることや(大判明45.6.20刑録18輯896頁)、驚かすために人の数歩手前を狙って石を投げること(東京高判昭25.6.10高刑3巻2号222頁)もこれにあたります。

この概念をそのまま刑法177条に持ち込むと、通常の性行為についてもほぼすべて(旧)強姦罪の構成要件に該当することになります。そこで、判例は「相手方の抗拒を著しく困難にする程度」のものとしてきました(最判昭24.5.10)。

この判例は現在まで維持されていますが、実際の裁判になると、その取扱いは一様ではないように見受けられます。

「被害者の任意の応諾に基いてなされた和姦であるとは到底いえ」ないとしつつ、「被告人が右通常の性交の場合において用いられる程度の有形力の行使以上の力を用いたと断ずるまでの証拠は見出し難」いとして強姦罪の成立を否定するものがあります(広島高判昭55.11.20)。これは、同意はないけれども、(旧)強姦罪の要件である「暴行」には至っていないというわけですから、「暴行」の意味を狭くとらえているものでしょう。

これに対して、「同女を仰向けに押し倒し同女の体の上に覆い被さり、さらに同女の両膝を両手で掴んで左右に押し広げるなどの暴行」(福島家裁いわき支決平17.1.20)を罪となるべき事実とする例もあります。この場合、認定された事実からは、通常の性行為の際の動作と特段の違いがなく、暴行要件は犯罪成立のためのハードルではなくなっています。このケースでは、性行為が心理的な強制に基づくかどうかが決め手となっているようにも見受けられます。

もし、前者の取り扱いが不当で、後者の取り扱いが適切だ、とするのであれば、暴行・脅迫は、意に反する行為を強要する手段であればよいということになります。そうだとすると、財産犯との対比は、強盗罪ではなく恐喝罪を対象とするのが適切なはずです。

なぜなら、強盗罪は、暴行・脅迫を手段として財物を交付させるものですが、その程度は、反抗を抑圧する強度の程度が必要であるのに対して、恐喝罪における、暴行・脅迫の程度は、反抗を抑圧する程度に至らないもので足りるものだからです。

そして、恐喝罪の法定刑が10年以下の懲役ですから、(旧)強姦罪の3年以上の有期懲役が「軽すぎる」という評価は難しく感じられます。

逆に、強盗罪と比較することが優先するのだ、とすれば、暴行・脅迫要件は緩和せず、強度のものが必要であると考えるほうが論理的です。「重罰化を求めつつ、暴行・脅迫の程度を緩和することを求めることは矛盾であり、両立が困難である」*5と言われるのはこのことを指しています。

*5 斎藤豊治著「性刑法の改革と課題」『犯罪と刑罰』26号71頁(成文堂・2017年)

見直しとその方向性

条文の位置について

保護法益とは何か

ある行為を犯罪とし、処罰する。それはなぜかという問題です。

もちろん、それぞれの法律により、具体的な目的はさまざまでしょう。しかし、抽象化すると、それによって守るべき利益、保護すべき価値があるから、ということになります。刑事法では一般に「保護法益」といいます。

保護法益が何か、ということを議論するのは、単に分類のためではなく、時として解釈の際の指針になりますし、法律を作る際の指標になります。

刑法は、罪の規定について、保護法益の類型別に並べられているようです。「第2編」は内乱に関する罪、外患に関する罪、国交に関する罪など、いわゆる国家的法益に関する罪が並びます。次いで、社会的法益については、放火及び失火の罪、出水及び水利に関する罪などが並び、199条からは殺人や傷害など、個人的法益に関する罪が続きます。

保護法益をどう考えるか

強制性交罪の保護法益をどのよう考えるか、言い換えると、強制的な性交という行為を犯罪とすることによって、何を守ろうとしていると理解すべきでしょうか。

古くから強姦罪は性的自由を保護法益とするというのが通説とされてきましたが、実際には「貞操」も保護法益であると説かれていました。*6

実際、強制性交等罪は、社会的法益が並ぶ「第21章 虚偽告訴の罪」と「第23章 賭博及び富くじに関する罪」に挟まれた第22章に「わいせつ、強制性交等及び重婚の罪」として規定されています。戦後に姦通罪が廃止されるまでは、強姦罪と姦通罪が22章に規定されていたということにも関係します。妻に重い貞操義務を負わせることが社会の秩序にとって大切だ、という考え方に基づくのかもしれません。

妻が強姦の被害者であるにもかかわらず、貞操を守ることができなかったとして非難される時代もあったのです。

しかし現在では、保護法益は性的自由ないし性的自己決定権と考えるべきで、したがって個人的法益であるという理解が一般的です。

刑法の規定の中には、時代の変化とともに、個別には、「どうしてここに規定しているのか」と疑問に思われるものもあります。解釈で、「ここに規定があるけれども、個人的法益と理解して解釈すべき」という条文もないではありません。第22章は「わいせつ、強制性交等及び重婚の罪」となっており、重婚の罪はともかく、「わいせつ、強制性交等」の規定の位置は明らかに不自然だと言わざるをえないでしょう(重婚の罪と同じ章というのも違和感があります)。したがって、個人的法益のカテゴリーが並ぶ、「第26章 殺人の罪」以降の、適切な場所に規定を改めることを検討すべきと考えられます。

*6 「強姦罪につきましては、一般的に個人の性的自由ないし貞操を保護法益とするというふうに考えられております」という平成7年の法務省刑事局長の答弁がある。(第132回国会参議院法務委員会会議録第9号)

「暴行・脅迫」要件をめぐって

「暴行・脅迫」要件の問題

暴行・脅迫は「抵抗を著しく困難にする程度」とするのが判例であり、通説とされてきました。しかし、その立証のハードルが高く、犯罪の成立が不当に制限されること、捜査の過程や裁判の過程で同意の有無が焦点となり、二次被害が生じること、そしてそもそも性犯罪の本質は「意思に反する」性行為の強要であるから、暴行・脅迫要件は削除すべきとの意見が2017年の刑法改正の際に提起されました。

しかし、暴行・脅迫要件をなくすと、処罰範囲の限定ができなくなるなどの理由で見送られました。

また、先にあげた例からも、最近の裁判実務ではわざわざ暴行・脅迫要件を撤廃しなくても、同意の有無のほうを重視して判断する傾向にあるという指摘もあります。言い換えれば、そんなに強度の暴行・脅迫がなくても、犯罪事実を認定できるので、法改正はしなくても大丈夫、という考え方です。

このような指摘にもかかわらず、関係者からのヒアリングでは、裁判に至る前の段階において、暴行・脅迫要件が重視されている実態が決して稀なことではないことが伺われます。つまり、起訴にまでたどり着けば、(裁判所によっては)きちんと犯罪事実を認定してくれるのかもしれないけれども、それ以前の段階、つまり警察で被害を訴えても、「抵抗できたのに、しなかったのではないか」、「隙があったのではないか」など、いわゆる強姦神話に基づくかのような対応をされたと訴える関係者も少なくありません。

また、恐怖のあまりフリーズしてしまったケース、殺されるかもしれないと思い、ともかく早く終わってほしいと我慢していたケースは、被害の実態として決して珍しいことではありません。このような場合、そもそも抵抗していないのですから、抵抗を抑圧する手段としての「暴行・脅迫」は行われていないので犯罪は成立しないとされかねません。

このような疑問に対して、条文の「暴行・脅迫」要件について維持され、その文言についての解釈として定着している判例が明示的に変更されていないにもかかわらず、「警察など関係機関が正しく最近の裁判実務を理解すれば足りる問題である」というのは無理があるのではないでしょうか。

被害者の同意(承諾)の問題

「暴行・脅迫」要件に大きな問題があることは間違いありません。では、これを撤廃すれば問題は解決するか、ということについてはなお検討が必要です。

この要件については近年、問題意識をもって改正に取り組む国が見られます。被害者側の同意の有無を重視する傾向が特徴といえますが、その内容はさまざまであり、難しい課題であることがうかがわれます。「暴行・脅迫要件を撤廃して、不同意を本質とする罪とすべき」という主張はフリーズ案件のような場合に説得力を持つようにみえます。にもかかわらず、なぜ難しい問題なのでしょうか。

保護法益が何であるか、という問題は、被害者の同意によって、原則的に違法性がなくなるか、ということと関連しています。

国家的・社会的法益については、「被害者」がその行為を同意(承諾)することはまず考えられませんが、個人的法益については、逆になります。そもそも、保護されるべき個人が、保護されることを放棄する自由があるからです。

外形的には、①他人の物を壊す(器物毀棄)、②他人の物を自分の占有下に移す(窃盗)、③他人に有形力を加える(暴行)であったとしても、①「処分しておいて」、②「部屋に忘れたので取ってきて」、③「肩が痛いので叩いて」という明示的な同意があれば、形式的には刑法に定める条文に該当することになりますが、これが犯罪になると考える人はいないと思います。犯罪が成立するためには違法でなければなりません。判例や、刑法の専門書などで「構成要件には該当するが、被害者の同意があるので違法性が阻却される」と表現されるのはこのようなことを指しています。

これだけではありません。事前に明示的な承諾がなければ違法性が阻却されないのだとすると、社会生活は成り立たなくなります。①いらない書類だと思ったので気を利かせてシュレッダーにかけた、②今出かけた同僚のスマホが机の上にあったので、忘れていると思って持って行った、③仕事中、肩を抑えている同僚がいたので後方から「肩、凝ってるんじゃないの」と肩もみしながら声をかけた、などの行為が故意の犯罪になってしまうというのも現実的ではありません。このような場合には、明示的な承諾はなくても「推定的な同意(承諾)がある」と考えることができます。

性犯罪について、「不同意を本質とする犯罪だ」という主張を刑法という視点で考えたとき、ここに難しさがあるのです。つまり、個人法益の場合、犯罪が成立するのは原則として被害者が同意をしていないためであり、「不同意を本質とする」というのは性犯罪に特有の事柄ではないということです。しかも、①他人の物を壊す、②他人の物を自分の占有下に移す、③他人に有形力を加えることは、抽象的・外形的に見れば違法であり、同意によって違法性がなくなる、というのは1つの理屈でしょう。しかし、性交それ自体が抽象的・外形的に違法であると言うことは困難です。

そこで、処罰されるべき行為、犯罪の構成要件を法律上どのように記述すべきか、ということはそう簡単な問題ではありません。

外国の法制を参考にしてみる1 英米法系

イギリスで2003年に成立した性犯罪法で処罰される強姦は、「不同意性交」として理解されています。ただし、日本の刑法に比べると、規定が詳細かつ複雑であり、刑事訴訟法の立証に関することも規定されています。

そもそも、同意があったのか、なかったのか、については当事者の主観にかかわることであすから、どうやって証明するのかが問題となります。

この点、⑴被告人が関係行為を行っていること、⑵75条2項に規定された状況が存在していること、⑶被告人が当該状況の存在を認識していたことが立証された場合には、①被害者が関係行為に同意していなかったこと、および②被告人は被害者が同意していることを合理的に認識していたなったことが推定されるとしています。

そして、75条2項に規定されている状況とは、暴力の行使、暴力が行使されるとの恐怖心の惹起、違法な監禁状態、睡眠その他の無意識状態、被害者側の身体的無能力に基づく同意の有無の伝達不可能状態、薬物の投与です。*7

すこしややこしいのですが、当事者がどのような認識だったのかを自白以外のことで立証することは困難ですから、「こういう場合には同意はなかった」と推定することとしています。その、立証の際に「暴行・脅迫」が決して無視できない要素であることが伺われます。

裁判手続などの違いはありますが、日本において、被告人が「同意の上での行為であり、暴行はしていない」と主張することと、イギリスにおいて、「暴力を行使したとか、恐怖心を持っているという認識はなかったので、同意はあったと思っていた」と主張することと、(少なくとも法律的には)大きな違いはないことになります。

イギリス法の流れをくむカナダでも、1982年、1992年に刑法が改正され、被害者の同意の不存在を犯罪成立要件の中心に据えられ、同意や同意認識の抗弁について、被告人に「相当厳しい独特の態度がとられている」と評価されています。*8

ただし、刑法271条の罪は、「性的暴行(sexual assault)を犯した者は、次のように罰する。(a) 正式裁判の罪として、10年以下の、そして被害者が16歳未満の場合は短期1年の拘禁刑に処し、または、(b) 略式裁判の罪として、18月以下の、そして被害者が16歳未満の場合は短期90日の、拘禁刑に処する。」
というものであり、「暴行・脅迫」要件が撤廃されているわけではないことには注意を要します。のみならず、脅迫を手段とした場合、むしろ性的暴行に該当しない余地があります。

*7 仲道祐樹著「イギリスにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号20頁(2018年・成文堂)
*8 和田俊憲著「カナダ刑法における『性犯罪』への対応」刑事法ジャーナル45号61頁(2018年・成文堂)

外国の法制を参考にしてみる2 大陸法系

2016年、ドイツでは第50次刑法一部改正法により、暴行・脅迫要件を除くこととし、「被害者の(認識可能な)意思に反して『性的行為(sexuelle handlung)』を行えば、犯罪とすること」としました。*9

ここに至るまで、ドイツでも大論争があったようです。

たとえば、「被害者の意思に反する」ことを裁判所がどのように証明しうるのか。さらに、性行為自体は行為者の行為の不法内容を欠いているといわざるをえないという問題です。

この改正については、「不法内容から強制という要素を排し、構成要件から強要手段をなくすことによって、個人の性的自由を包括的に保護しようとすれば、当然のことながら当該規定の限界はあいまいなものとなり、解釈に際して問題が生じる」という指摘がなされています。*10

スイスでは、刑法190条において、暴行・脅迫・抗拒不能にすることに加えて、「心理的に圧迫すること」という新たな強要手段が2003年に規定されました。暴行・脅迫要件を撤廃するという方法ではなく、これと並べる形で別の犯罪の成立要件とした、ということです。

ただし、「心理的な圧迫」は、成立範囲の不明確さが学説からも激しく批判され、判例においてもその判断基準をめぐっては様々な議論がなされているようです。*11

このような議論からも、犯罪成立要件でなくなったとしても、意思に反するかどうかを認定する証拠として、暴行なり脅迫なりが行われたかどうかということが刑事裁判の立証の際にまったくなくなるということではないように推測されます。

このように、暴行・脅迫要件を撤廃したと理解されているイギリスでも必ずしも条文から完全に消えてなくなったわけではなく、撤廃したドイツでもまだ議論が続いているようです。外形的な指標をなくしてしまうと、適法な行為と違法な行為の境界を客観的に認識することが困難になるわけで、①構成要件でなくなったとしても、証拠として暴行・脅迫がまったく無意味になるとは考え難いこと、②仮に暴行・脅迫とは無関係に「意思に反したこと」を立証しようとすれば、今以上に「同意の有無」が裁判の主要な争点となり、セカンドレイプがより深刻となるという副作用も想定されます。

また、依然として暴行・脅迫要件については維持している国もあります。アメリカは、州によって異なりますが、一般に実力要件は存在し、徹底的に抵抗することを要求しないとしても、現実の抵抗を排除する有形力は要求する州もなお存在するとされています。*12

フランスでは、暴力・強制・脅迫あるいは不意打ちによる性的侵入が強姦罪を構成し、暴力等の事実認定が不可欠であるとされています(破棄院2005年7月8日判決)。*13

*9 井田良著「ドイツにおけるハラスメントの法規制」刑事法ジャーナル60号31頁(2019年・成文堂)
*10 嘉門優著『法益論』217頁(2019年・成文堂)
*11 深町晋也著「スイス刑法における性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号105頁(2015年・成文堂)
*12 樋口亮介著「アメリカにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル55号45頁(2018年・成文堂)
*13 金塚綾乃著「フランス性犯罪に関する立法」刑事法ジャーナル55号123頁(2018年・成文堂)

考えられる方策1

これまで見てきたように、暴行・脅迫撤廃イコール被害者救済という簡単な問題ではないだけでなく、撤廃をしたからといって、刑事裁判が劇的に変化するという過度な期待はできないように思われます。

強制性交罪の保護法益が性的自由ないし性的自己決定権であるとすると、フリーズしてしまって抵抗できなかったように場合や、「殺されるよりはまし」と我慢していた場合に、保護法益を侵害していることには疑いの余地はありません。

繰り返しになりますが、「このようなケースでも、最近の判例は犯罪の成立を認めている場合があり、警察など関係機関が正しく最近の裁判実務を理解すれば足りる」というのは適切ではなく、やはり法的な手当てが必要と考えます。

そこで、現行の条文にある「暴行・脅迫」要件については、①「フリーズ」案件も包摂しうる、緩やかな程度でも足りるような文言に改めること(新たな要件を暴行・脅迫要件に置き換える)や、②スイスのように、「暴行・脅迫」要件と並べてもう一つの要素を加える(暴行・脅迫または○○)とが検討されるべき1つの方策と考えられます。

しかしこの場合、重罰化された法定刑の下限はそのままでよいのかという問題があります。2016年のドイツ刑法改正に際して、177条の罪から、「暴行・脅迫」要件を撤廃するとともに、性的強要の罪については1年以上の自由刑から、6月以上5年以下の自由刑に法定刑を引き下げています。*14

*14 なお、「アメリカのミシガン州の性刑法改革では、初期の段階で、コモンローの伝統に由来する刑罰が重すぎるという理由で、法定刑の引き下げが主張され、実現された。それは、捜査と訴追、有罪判決を促すには、重すぎる刑罰は逆効果と考えられたからである」 – 斎藤豊治著「性刑法の改革と課題」『犯罪と刑罰』26号71頁(成文堂・2017年)

考えられる方策2

2017年の刑法改正で、厳罰化を勝ち取った、と考える人々にとっては、法定刑を下げるという方策は受け入れがたいものかもしれません。しかし、法定刑の引き上げを行ったことによって、後で検討する「監護者」や「未成年者」に関する選択肢が狭くなるという側面があります。性犯罪を適正に処罰しようとしている国ではむしろ法定刑の引き下げが行われていることは、参考にされるべきだと思います。

刑法ではありませんが、交通違反(道路交通法)の例で考えてみます。

スピード違反は違法だ、とされていますが、運転していた車両、超過速度、さらには酒気帯びかどうかにより、交通反則金の額や点数が細かく定められています。15キロ未満の違反を犯した場合、原付6千円、自動二輪7千円、普通車9千円、大型車1万2千円といった具合です。反則金の額は超過速度がプラス5キロ単位で千円から5千円の単位で上昇します。さらに、人を死傷させたり、酒酔い運転であったりすれば別途点数が定められ。ペナルティーとして運転免許の停止や取消しなどが定められています(刑事罰については別途、刑法の話になります)。

15キロ未満の軽微な違反からスタートしていればこそ、違反の程度・質に比例して、重いペナルティーを科すことができるのです。仮に、「スピード違反は悪であり、重罰化が必要だ」として、最低でも免許停止としてしまったら、取締り、立件も躊躇を感じるかもしれません。

また、「新たにこういう類型についてペナルティーを考えるべきだ」という問題が出てきても、免停か取消し以上の処分はないので、法律で新たなカテゴリーを設ける理由が存在しなくなってしまいます。逆に、軽度の反則金からスタートすればこそ、非難の度合いに応じた対応が可能なのです。

これはあくまでも道路交通法に基づく交通反則金などの仕組みですので、刑法とは違って細かく定めることができるのだ、というのが少なくとも日本の法律家的な感覚だと思います。しかし、外国の法制度を見ると、これが刑法で定められていることなのかと驚くぐらい、構成要件や罰則が詳細に規定されています。性犯罪の規定も、成立要件についてはハードルを下げるのに合わせて法定刑を引き下げ、悪質さ、非難の度合いに応じたカテゴリーを別途重く処罰するなどの方策がとられる傾向が見られます。

このような観点からすると、①現行刑法の強制性交罪については、最も重い類型のものとして固定し、フリーズ案件なども包摂しうる構成要件を刑法に別途規定する、②性犯罪については刑法とは別の「性犯罪法」のような特別法を作り直し、刑罰については下限を引き下げたうえで悪質なものについては類型化して加重していく、というのがもう1つの方策として考えられます。

「監護者性交等罪」の範囲の拡大の可否について

法改正の経緯

被害の実態のヒアリングから、実親など、監護者から若年の時から性交等が継続的に繰り返され、日常的なこととなってしまっているようなケースで、個々の行為においては「暴行・脅迫」がないケースが指摘されていました。

2017年刑法改正により、監護者性交等罪が刑法179条に規定されました。

18歳未満の者は、生活全般にわたって自己を監護し保護している監護者に経済的にも精神的にも依存していて、監護者が、そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生じる監護者であることによる影響力があることに乗じて18歳未満の者とわいせつな行為や性交をすることが構成要件とされています。

ただし、このような行為は、刑法改正によって新たに違法行為となったものではなくて、従来から児童福祉法36条1項6号、60条1項により10年以下の懲役に処せられる行為(「児童に淫行をさせる行為」)の一部を刑法に編入し、重罰化をしたものです。

規定ぶりは行為者の属性(監護者の地位)に乗じたものとされていますが、犯罪の性質から、被害者の真摯な同意がありえないケースを類型化したものです。個人的法益ではありますが、このケースでは被害者の同意は問題としない(違法性を阻却しない)、ということを意味しています。被監護者からわいせつ行為を求めたであるとか、喜んで求めに応じたというだけでは、影響力と無関係にわいせつ行為が行われたと認めることはできないとされています。

範囲の拡大について

この監護者性交等罪について、18歳以上の者に対して地位・関係性(上司と部下など)を利用して性的行為を行った場合、あるいは18歳未満の者に対して監護者以外の地位・関係性(教師やスポーツのコーチ)の利用による性的行為などについても類型化し、刑法に規定すべきとの意見もります。

これは、法律で定められた監護者以外のケースでも、その地位や関係性によって、拒絶することが事実上困難であるなど、被害の実態に注目した意見です。また、外国の立法例を参考にした提案などもされています。

しかし、気を付けなければいけないのは、新たな類型を作り、あるいは179条の範囲を広げるということは、本人同士が真剣にお付き合いをしていたとしても、同意の有無を問わず犯罪になってしまうということです。

世の中には、もともと上司だったのが出会いのきっかけだった、あるいは教え子だったという幸せそうなカップルが存在します。真剣な交際をしている当事者を犯罪者にすることがあってはいけません。

少なくとも、現在提起されているような関係において、すべてのケースに対して「真摯な同意がありえない」と断定し、刑罰をもって臨むことは適切ではないと考えられます。例外なく同意を無視してようという類型があるかどかは、更なる事例の検討が必要と思われます。

外国の法制

この点についても時として外国の法制度を参考にして、「海外ではこのように進んでいる」という意見もいただきます。

アメリカでは、典型例は刑務所職員と受刑者、ないし保護観察官を含んだ矯正機関とその対象者。その他、①医療機関と患者、②教師と生徒、③宗教関係者と信者、④親子・親族関係、⑤雇用者と被用者、⑥スポーツのコーチなど、加重処罰される規定があります。*15

ドイツでは、状況・地位・依存関係利用類型について別途規定がり、174条⑴は3月以上5年以下、⑵は3年以下の自由刑もしくは罰金が定められており、むしろ177条の刑よりも軽く規定されています。*16

スイスでも、児童の保護や青少年の保護規定を広範に導入する代わりに、法定刑の上限が強姦罪などと比して低く抑えられています。被害者の現実の合意が存在してもなお成立するからとされています。*17

このように、「外国では規定がある」というのは、間違いではありませんが、日本の仕組みとはかなり違うようです。つまり、強姦ないし強制性交の罪が成立していることを前提として、そのうえで地位や関係性がある場合に刑を重くしたり、軽くしたりという工夫をしているということです(加重・減刑要件)。そもそも地位・関係性があることを理由に犯罪が成立する(成立要件)としているわけではないのです。

では、刑罰のところを工夫できないか、と言われそうですが、すでに検討してきたように、強制性交等罪は重罰化により下限の引き上げを行っており、これ以上の工夫の余地はなくなってしまっています。

*15 樋口亮介著「アメリカにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル55号47頁(2018年・成文堂)
*16 嘉門優著『法益論』246頁(2019年・成文堂)
*17 スイスの場合、絶対的保護年齢が16歳ときわめて高いために、年齢差に基づく不可罰要件とともにこのような規定が必要となる。- 深町晋也著「スイス刑法における性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号118頁(2015年・成文堂)

考えられる方策

当事者・関係者から提起されている、地位・関係性に関する問題は、不利益を受けるかもしれない、人間関係を壊したくないなどの事情によって、不同意の表明が困難であり、それゆえ、「暴行・脅迫」要件を満たしていないとして、捜査段階で取り上げてもらえない、裁判でも有罪判決を獲得できないという点にあると考えられます。

そうであるとすると、監護者類似の規定を拡張する方向ではなく、「暴行・脅迫」要件で検討した方策などによって、処罰の間隙を埋めるべきでしょう。つまり、①フリーズ案件と合わせて不同意の表明が困難な場合なども包摂しうる構成要件を刑法に規定する、②特別法を作り直し、刑罰については下限を引き下げたうえで地位・関係性において悪質なものについては加重していく、という考え方です。

配偶者間について

問題の所在

学説上も、実務上も、たとえ配偶者間であっても強制性交等罪(強姦罪)等が成立することは当然の前提とされています。

ところが、内閣府が3年ごとに行っている「男女間の暴力に関する調査」によれば、女性に無理やりの性交をする加害者は、夫または元夫が常に2~3割を占めています。にもかかわらず、警察庁が行っている犯罪統計の「年間の犯罪」によると、検挙された強姦罪の加害者が夫である割合は1%にもなりません。

この数字のギャップからすると、被害にあっているにもかかわらず、事件化されていない比率が配偶者間では相当に高いことが伺われます。

このことから、配偶者間でも強制性交等罪が成立することを明記すべきという意見もあります。また、外国での法改正の動向を参考に、日本は遅れているというような見解もあるようですが、これは、海外の歴史的な沿革を紐解かなければならない事柄です。

なぜ外国で夫婦間を明記するようになったのか

そもそも、イギリスにおいては、コモンローで「夫が自ら、その正妻に対して強姦をしたとして有罪とされることはありえない」とされてきました。日本と異なり、そもそも夫婦間では強姦罪は成立しないものとされてきたのです。

ようやく1991年になり、貴族院判決により、「現代においては、婚姻関係には強姦罪は適用されないとの想定は、イングランド法の一部をなすものではない」とされました。したがって、現在では、夫婦間および同棲カップル間の強姦について、男性側を優遇するような規定は存在していません。ただし、夫婦間強姦を特に処罰することを定めた規定も存在しないようです*18

ドイツにおいて、「婚姻外」という要件がなくなり、配偶者間でも性犯罪が認められるようになったのはさらに後の1997年の第33次刑法改正法です。*19

スイスでも、強姦罪は夫婦外に成立するものとされてきましたが、2003年の法改正により、行為者と被害者とが生活共同体を営んでいる場合には、訴追、処罰されることとなりました。*20

フランスでは、夫婦間の義務の名の下に夫婦間強姦は違法な行為ではないと理解されていました。しかし、1990年・1992年に破棄院が夫婦間においても強姦の成立を認めました。そして、2006年の刑法改正により222-22条第2項が新設され、婚姻関係にある当事者間においていても強姦が成立しうることが正面から認められました。*21

*18 仲道祐樹著「イギリスにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号26頁(2018年・成文堂)
*19 佐藤陽子著「ドイツにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号72頁(2015年・成文堂)
*20 深町晋也著「スイス刑法における性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号104頁(2015年・成文堂)
*21 金塚綾乃著「フランス性犯罪に関する立法」刑事法ジャーナル55号124頁(2018年・成文堂)

どのように考えるべきか

このように、外国で夫婦間にも犯罪の成立を認める傾向が近年顕著なのは、そもそも夫婦間に強姦は成立しないという考え方が近年まで取られていたことが原因です。州にもよりますが、アメリカでは依然として夫婦間とそれ以外の関係を等しく扱うのは必ずしも多数派ではないようです。*22

もともと日本の刑法の場合、夫婦であれば犯罪は成立しないなどとはしていないわけですから、あえて明記する必要性がありません。夫婦間の場合、通常の場合よりも重い規定にするか、軽い規定にするということであれば、別の規定を置く理由になるでしょう。

しかし、すでに検討したように、重罰化についてはすでに上限に達していると思われますし、逆に、夫婦だから軽い刑罰でよいというのも合理的な理由はないように思われます。

そうだとすると、この問題については、法律を改めることが必要なのではなく、その運用が改められるべきことと考えられます。警察における取り調べでも、夫婦間だからといって捜査が消極的にならないよう、また、適正に訴追がなされるよう、刑法が改正される際の附帯決議などの形で、立法者としての意思を明らかにする方策が検討されるべきでしょう。

「性交等」の範囲について

改正の経緯と問題点

2017年の刑法改正において、強姦罪が強制性交等罪に改められ、「性交、肛門性交又は口腔性交」すなわち、男性の陰茎を膣・肛門・口腔内に挿入する、挿入させる行為が対象となりました。

この改正に関する法制審議会において、臨床心理士の委員・幹事から、性器に手指を挿入された場合には、挿入されていない場合と比較して、明らかに被害が重い旨の指摘をされています。また、幼児期の性的虐待の態様として手指の挿入が多い旨の指摘などもあります。

このような被害実態にも目を向け、範囲の拡大をすべきではないかが問題となります。

考え方

この問題はまさに、保護法益をどのように考えるかという問題と関連します。

加害者が性的欲求を満足させたことを処罰するのではなく、被害者の性的自由ないし性的自己決定が侵害されたことを処罰するのが強制性交等罪の本質だとすれば、男性の陰茎に限る必然性はありません。むしろ、手指や異物挿入についても同様に考えるべき類型はあるはずです。性的挿入を構成要件としている各国の立法例は例外なく遺物の挿入を含んでいるという指摘があります。*23

ただし、挿入の対象として口腔については限定が必要と考えられます。手指・異物と組み合わせると、明らかに法益を侵害していないような行為(親が子に対して歯磨きをする行為)が含まれてしまうからです。

そこで、手指や異物の挿入による濃厚な性的接触によって、身体的内密領域が侵害され、性的自由の侵害を生じる限りにおいて適切に「性交等」の範囲の拡大が検討されるべきである。

手指・異物に関しては、行為と対象によっては、軽重がありえます。この問題でも、現行の刑罰にふさわしい態様を絞り込もうとするから、構成要件に取り込むのは限定的にならざるを得ないという側面もあるのではないでしょうか。刑の下限の引き下げを行ったうえで、類型ごとに重い刑を設ける、という方策が、この場合にも有効ではないかと考えられます。

*23 辰井聡子著「性犯罪に関する刑法改正-強制性交等罪の検討を中心に-」刑事法ジャーナル55号6頁(2018年・成文堂)

性交同意年齢

低年齢化の実態

刑法における性交同意年齢(絶対的保護年齢)を引き上げるべきではないかという意見があります。

13~14歳くらいから妊娠、さらには10代のうちに複数回の妊娠中絶の例が決して稀ではない実態が医療関係者のヒアリングで述べられました。また、行為の意味やリスクなどを理解していないことも要因であり、学校教育の現場で性教育についてカリキュラムに編入すべきことなどの課題についても検討されるべきと考えます。

性的自己決定をすることができる能力を何歳と定めるか、という視点で考えると、行為の意味やリスクについて十分に理解し、判断できるだけの能力を有することが必要なはずです。個人の行動に対するパターナリスティックな制約という観点からは、性教育が十分になされていない以上、より高い年齢にすべきだとも考えられます。

しかし、刑法の問題として考えた場合、性交同意年齢とは、本人の同意があったとしても無効とする(無視する)ことを意味します。同意があっても犯罪となる、ということです。論理的には、性交同意年齢の引き上げを行えば、少年犯罪の範囲も拡大するという関係にあることも注意しなければなりません。

外国との比較

日本の刑法の性交同意年齢が「低すぎる」との指摘されることもあります。しかしこの指摘は、外国の法制と比較する際、性交同意年齢と保護年齢と混同しているものが多いように見受けられます。

日本の場合、刑法で性交同意年齢を13歳としていますが、刑法とは別に児童福祉法の規定では18歳を保護年齢としています。13歳までは、同意があってもその効力は認められず、犯罪が成立するのに対して、13歳から18歳までは、同意を一律に無効とするのではなく、事情によって犯罪とするという取り扱いをしています。外国の場合には、同意があることによって違法性が減少するなどの取り扱いをしているものも見られます。

この、児童福祉法的な規定が外国では刑法に規定されている場合もあるという事情には注意を要します。少し詳しく見ていきましょう。

アメリカにおいて、絶対的保護年齢はコモンローにおいて10歳未満とされています(ただし、州によって異なります)。なぜ10歳かについて、2014年模範刑法典暫定草案の解説において、第2次性徴の開始を根拠としています。

これとは別に、①被害者が13歳未満で行為者が18歳以上の場合には11歳未満の者と同じく最も重く罰し、②被害者が15歳未満で行為者が18歳以上の場合を中程度で処罰し、③被害者が15歳未満で行為者が21歳以上の場合を最も軽く処罰しています。*24

カナダでは、①12歳未満の子ども、②12歳以上14歳未満の児童、③14歳以上16歳未満の児童、④16歳以上18歳未満の若年者という年齢ごとに異なった類型を定めていますが、同意を問題としないという意味での性交同意年齢は12歳です。*25

イギリス2003年性犯罪法で絶対的保護年齢を定めることについて議論があり、13歳に定められました。脆弱主保護規定は別に置かれ、9条から15条に16歳未満の者の性的行為などが規定されています。*26

フランス刑法では性交同意年齢は15歳と高くなっています。ただし、強姦が15年以下の拘禁刑に対し、未成年者は5年以下と、成人に比して軽く処罰されることとなっています。26未成年の場合には刑が重くなっているのではなく、軽くなっているのは、むしろ15歳という年齢が高すぎること、同意に一定の意味を与えていることが理由と考えられます。*27

スイスでは、刑法187条において性交同意年齢が16歳未満とされています。スイス刑法の改正の際には、専門委員会から14歳とすべきとの提案があったのですが従来の規定が維持されました。

学説において、あまりにも年齢が高すぎるのではないかとの疑問も呈されているようです。スイスにおいても、フランスに似ていて、強姦罪が1年以上10年以下の自由刑であるのに対し、児童との性的行為については5年以下の自由刑と、軽く処罰されることになっています。2*28

ドイツにおける絶対的保護年齢は14歳未満です(176条)。ただし、ドイツにおいても、成人の強姦罪が1年以上の自由刑であるのに比し、6月以上10年以下と軽く処罰されることとなっています。*29

*24 樋口亮介著「アメリカにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル55号49頁(2018年・成文堂)
*25 和田俊憲著「カナダ刑法における『性犯罪』への対応」刑事法ジャーナル45号65頁(2018年・成文堂)
*26 仲道祐樹著「イギリスにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号30頁(2018年・成文堂)
*27 金塚綾乃著「フランス性犯罪に関する立法」刑事法ジャーナル55号127頁(2018年・成文堂)
*28 深町晋也著「スイス刑法における性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号112頁(2015年・成文堂)
*29 佐藤陽子著「ドイツにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号71・88頁(2015年・成文堂)、嘉門優著『法益論』211頁(2019年・成文堂)。ドイツでは2017年7月19日に、連邦司法・消費者保護大臣に提出された「性刑法改正委員会・最終報告書」には、「同意能力に関する14歳という年齢要件は、これを維持すべきである(引き上げにも引き下げにも反対する)が(全員一致)、ただ加害者・被害者間の年齢の差がわずかな場合(たとえば、2歳以下)には加害者は処罰されない実体法上の可能性を設けるべきであるとする興味深い提案(ただし、7対5の多数意見)が含まれている。」井田良著「ドイツにおけるハラスメントの法規制」刑事法ジャーナル60号32頁(2019年・成文堂)

どのように評価するか

日本の性交同意年齢は外国との比較でみても、低すぎることはないどころか、他の国の議論を見ると、比較的適正なラインで引かれているように見られます。保護年齢を比較すると、日本は18歳ということになり、これもおおむね標準的な年齢と言えます。

現行法であれば、14歳どうし、14歳と15歳の性行為は好ましいことかどうかは別として刑法上の問題は生じません。

仮に、14歳、15歳と絶対的保護年齢を引き上げる、つまり同意があったとしても犯罪になるのだ、とした場合、14歳どうし、15歳どうしの性交は、双方が保護年齢未満の者に対して性交等をしたことになりますから、いずれも処罰されることになります。少年法では、全件送致主義がとられていて(少年法41条・42条)、事件は家庭裁判所へ送られますから、起訴便宜主義がとられている成人よりも厳しく対処されるとみる余地があります。
 
それだけではありません。同意を無視することと、「性中立化」を組み合わせると、年少者について同性愛処罰規定(いわゆるソドミー法)として機能する部分が生じることになります。
 
このようなことを念頭に、年齢差が小さい場合には犯罪が成立しないようにすればよいのだ、という主張があります。外国の法制で、未成年者同士の性交を犯罪化することを避けつつ、年齢差がある場合には、未成年者の健全な発展や同意の困難性などを理由とし、かつ、法定刑も軽減する、という規定ぶりとなっていることが参考にされています。

しかし、これは先ほど検討した外国の法制からも明らかなように、性行動年齢の問題ではなく、保護年齢ないし脆弱者保護として取られている方策です。

考えられる方策

日本においては、刑法ではなく児童福祉法に外国の保護年齢と同趣旨の処罰条項があります。

外国の法制を参考にすると、①刑法とのバランスをとりながら児童福祉法の規定を整える、あるいは②同意年齢の欠如を理由とするのではなく、未成年者の健全な発展や同意の困難性などのような別の理由から、児童福祉法的な規定を刑法に規定する、つまり脆弱者保護規定を刑法に置くことも考えられます。

ただし、どのような規定が適切かについては、具体的な事例などに即して十分な検討が必要と考えます。ここでも、刑の重罰化はもはや困難であること、むしろ外国の法制では刑の引き下げを行っていることには留意が必要です。

公訴時効について

問題の所在

関係団体や医療関係者から、強制性交等においては、幼少期に被害にあったため、その事柄の意味が理解できていないケース、トラウマ的な心因性の要因により「解離」と言われる状態にある間に公訴時効期間が経過してしまう場合があることが指摘されました。

いずれの場合にも、行為時から相当の期間が経ってからでなければ被害にあったこと認識できないわけですし、認識したときには公訴時効期間が経過していて起訴ができないということが起きてしまいます。

刑事訴訟法の250条以下に公訴時効について規定があります。例外的に公訴時効が停止することが254条・255条に定められていますが、個別の犯罪の特質に応じて停止することは想定されていません。

外国の法制

ドイツにおいては、満30歳まで公訴時効は停止することとされました(78b条1項1号)。家族やその他の環境による依存関係は成人で終わるとは限らず、被害者が行為時に小さな子供であったときは、トラウマと結びつく記憶喪失などから虐待を忘れていることがままあること、児童の性的虐待の被害者のためのコールセンターに問い合わせた人の平均年齢が46歳であったことなどの理由からです。*30

ただし、証明の困難性から被害者に結果的に満たされえない期待を呼び起こすという問題も指摘されている点には留意が必要でしょう。

スイス刑法においても1012年の改正の際、101条1項e号で、12歳未満の児童に対して性犯罪がなされた場合には、時効を撤廃することとしました。*31

*30 佐藤陽子著「ドイツにおける性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号100頁(2015年・成文堂)
*31 深町晋也著「スイス刑法における性犯罪規定」刑事法ジャーナル45号115頁(2015年・成文堂)

考えられる方策

この点も、保護法益をどう考えるかということが関係するように思われます。つまり、強制性交等罪の保護法益が社会的法益、つまり社会的の性道徳や性に関する秩序であるとすれば、加害者の行為の時点を起算点とすることはむしろ当然のことかもしれません。その時点で性道徳や秩序に対する侵害があったからです。

しかし、保護法益を性的自己決定と考え、犯罪の本質を本人の同意がなかったことに求めるとすると、被害にあったことを本人が認識しえない状態で公訴時効が進行するということは背理ではないでしょうか。

一般的には、時の経過とともに証拠が散逸するため、被害の立証が困難となります。ドイツで議論があるように、起訴が可能となり有罪判決が獲得しやすくなるか、という問題に対しては過剰な期待はできません。逆に、被疑者側からすると、防御に困難をきたすとのデメリットがあるのも事実ですが、一定の場合には、公訴時効が停止するという制度について、検討すべきでしょう。

被害に対する適正な処罰のためには、何よりも証拠の確保が重要です。そのため、行為後速やかな時間内に、体液等の採取、保存がなされることが必要です。医療機関や民間の支援団体によるサポート体制が極めて脆弱な体制にあることから、国による一層の財政的な支援も必要と考えます。