被害者の心情と立法事実のはざまで(危険運転致死傷罪について)

かつて、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案を議員立法で、細川律夫議員とともに提出したことがあります(法案作成のためのチームの座長が細川議員、事務局長が私でした)。

当時、東名高速道路で飲酒運転による悲惨な事故があったのですが、業務上過失致死と道路交通法違反でも懲役の上限が5年6か月だったこともあり、上限の引き上げなどを内容とする法案を作りました(刑の下限が低い場合には工夫の余地がある例です)。

2001年4月6日の衆議院本会議で質疑が行われ、答弁に立ちました。その時の議事録にも、「交通事故の被害者の方々、殊に突然愛する家族を失ったという、そういった方々から、加害者に対して極刑を求めるという、そういうお気持ちは十二分に理解できるところでありますが……(第151回国会 衆議院 本会議 第22号 平成13年4月6日)」というフレーズが出てきます。交通事故の被害にあわれた方や、ご遺族の心情と、他の刑罰法規との均衡について折り合いがなかなかつけ辛かった中での法案提出でした。

当時はなかなかご理解いただけませんでしたが、今では年賀状のやり取りをしている方もいらっしゃいます。

また、「この法案だけによって直ちに交通事故が劇的になくなるであろうとは考えておりません」という一節があります。
当時はサービスエリアで普通にビールなどのアルコールが提供されていましたし、今のように一発免停ではありませんでした。

刑罰を厳しくするだけでなく、サービスエリアでのアルコールの提供・販売をなくしたり、運転免許制度についての行政的制裁の強化などによって、飲酒運転による被害はかなり減らせたのではないでしょうか。

(飲酒運転に限らず、)そもそも、「交通事故による死者を少なくするには、過失致死を重く処罰するよりも、道路を整備した方が、はるかに大きな効果を持つことが多いのである」*といわれるように、犯罪の防止には、行為者に対する非難以外の方法が有効な場合もあります。犯罪被害をなくすため、また、犯罪があった場合、適正な処罰の確保のためには、さまざまな視点からの議論が必要です。

*平野龍一『刑法 総論Ⅰ』(有斐閣・1972年)23頁

なお、この議員立法は成立することなく、のちに、同旨の内容の政府提出法案(刑法改正。当時の刑法208条の2.)の形で成立しました。現在の危険運転致死傷罪です(自動車運転死傷行為処罰法第2条・第3条)。